今更だけど大辞林のUIを評価してみる

日本におけるiPhoneアプリ開発の、比較的早い時期にこのアプリが生み出されたことは今の我々の視点からは驚きでもありますが、もしかしたら必然であったのかも知れません。スマートフォンの操作や表示にまだ共通認識が少ない時期に、自由な発想で作り込まれたインタフェース。


今回は辞書アプリという枠を越えた、言葉の大海原([twitter:@entrypostman]氏の表現)を手のひらの中に作り出したフルスクラッチの美麗インタフェースを持つアプリ「大辞林」の話です。

存在はみなさんご存知だと思いますし、もし知らなくたって、何のアプリかは説明不要ですよね。



このアプリを購入していない方の大半は「アプリにしては高い価格帯」「大抵の言葉は(無料の)インターネットで調べられる」ことが理由になっているのではないかと思います。
確かにその通りで、同書の書籍版よりかなりやすいとはいえ他のアプリとの比較で金額的になかなか手が出ない人は多いでしょう。ネットで調べれば大抵の事は事足りるし、オンラインに繋がらない状態でも切羽詰まって調べたいような事は、逆にこの辞典に載ってるようなジャンルの話でない場合が多いかもしれません。


それでも敢えてこのアプリは必須アプリだと言いたいのです。理由はひとつ、「せっかくiPhoneを持ちながら、このUIを体験しないなんてことがあっていいのか?」

※価格は情報取得時点のものです。ご購入前にその時点の価格を確認願います。

大辞林 3.0(¥2,500)App
カテゴリ: 辞書/辞典/その他, 教育
販売元: 物書堂 - MONOKAKIDO Co. Ltd.(サイズ: 124.4 MB)

インデックス

あの重厚な大辞林のイメージカラーともいえる黒。カードのように均一に並べられた美しいフォントの言葉の群れ。
既に見るデザインとしても調和のとれた「和」の美学が感じられます。



でも、何よりも素晴らしいのは、タッチデバイスの可能性を極限まで引き出したユーザインタフェースとしての総合力です。
まず、一目見て自分がなにをすべきかが分かる直感性。通常、目的にたどりつくまでの階層が深い(タップ数が多い)というのは面倒で煩わしい事ですが、インデックスをカテゴリ別に辿って行く事すらむしろ快感。


その快感を誘発するのは、タップした瞬間にパネルがくるりと回転して飛び出して来る動き。

時計とかバッテリーの表示の事は気にするな。
分かりやすくするために遅めのアニメーションにしていますが、実際はもっと一瞬でパタッ!というエフェクトがとにかく気持ちいい。



ユーザが操作を快感と感じる要素は「受け付けられたことが実感できる」「処理の完了が明確である」「待ちがない」といった要素で、それらは全てこの挙動で満たされています。更に動きがダイナミックである為に、万が一「固まってしまった」ときにも分かりやすい。

いやもうこれは触ってもらわないと。店頭のホットモックにもよくインストールされてるので確かめて下さい。


そして、先ほど借りた名言「言葉の大海原」。指で上下左右に動かせば、どこまでも続くかのように縦横無尽に広がる言葉の数々。最も近いUIは「マップ」でしょうか
そしてここにもユーザエクスペリエンスを促す大きな仕掛けがあります。


「調べ物をしていたら、隣の言葉が目に入って、ついつい興味が湧いてどんどん目的以外の項目も読んでしまう。」
紙の辞書でよくある体験ですよね。
ここでもう一度、インデックスを見てみましょう。



どうですか?
「ペンギン」を調べようと思ったけど、「ひよひよ」って何よ?気になる?


紙の辞典とは作りは違うけど、目的の言葉を見つけるまでに他の項目に目がいってしまう楽しさ。このUIには受け継がれているのではないでしょうか。
しかも、紙のスタイルを模倣するのではなく、最もスマートフォンらしい操作性の演出を伴った体験として。



本文

本文を見てまず気付くのは、文字の大きさと行間の適度な広さ。実に見やすい。縦書きである事には、日本語の辞典の電子化に対する拘りが感じられます。


そして、文中の言葉を更に調べたいときの動作。指でなぞるだけ。超便利。

的確に調べたい言葉だけをなぞるには少しだけコツというか慣れが必要になりますが、それでも上に述べたように文字の大きさや行間の広さのおかげで、他のアプリの同様の操作に比べるとかなり楽です(句読点を巻き込んだ場合は無視してくれますし)。
その上指に隠れる箇所を左右にズーム表示してくれるので、どこまでなぞればいいか分かりやすいです。



ヒットする言葉が選択されて指が離れると、すっとその項目が立ち上がってきます。この動きも滑らかでストレスが無い。指を離さずに長押しの状態にすると文字列のコピーなんかも出来ます。

検索機能

また、インデックスだけでなく電子辞書として当然備わっている検索機能も使いやすい。




前方一致後方一致の切り替えも楽だし、ここの表示もまた、無機質な検索結果の羅列ではなく、全体のデザインとの調和が重視されている印象を受けます。
手書き対応もiPhoneらしくていいですよね。


他にも履歴ブックマーク他のアプリからの検索連携といったiPhoneの電子辞書として押さえるべき検索を便利にする機能はしっかり備わっていて、それらはどの画面からでも下部のタブからすぐ呼び出せるようになっています。
この、「どの画面からでも」というのは実に大事。


言葉がしみ込んで来るアプリケーション

今回はUIの素晴らしさを訴えたくてのエントリですので紹介はしませんでしたが、調べた言葉をTwitter投稿する、といったコミュニケーションツールとしても機能する仕組みも用意されています。


iPhoneらしい遊び心と快適さが調和した操作性、その上で電子辞書としての利便性は一切損なわず、また本来の大辞林そのものの魅力を可能な限り表現したデザイン。


版元から託されたコンテンツを、単なるデータではなく一つ一つの言葉を大事に、より魅力的に見えるように作り込まれている。ユーザは自分の好みのアプローチを選んで、意識しないでその「言葉」に辿り着ける。「言葉」が大事にされ、「言葉」がすっとしみ込んでくるような使い勝手の良さ。



言葉を尽くして素晴らしさを説いてみたけど、やっぱり見れば分かる使えば分かる、説明不要のUIだと思います。



こちらも参考までに。機能の説明はこちらの方が分かりやすいでしょう。

大辞林がもたらす七つの利 - #RyoAnnaBlog
2008年12月5日に発売されてからずっと欲しかったアプリ大辞林を、清水の舞台から飛び降りるつもりで購入した。私の小遣いは微々たるものなので「清水の舞台」という表現は決して大袈裟なものではない。同じように2500円という価格から購入に踏み切れない方も多いのではないか。

※価格は情報取得時点のものです。ご購入前にその時点の価格を確認願います。

大辞林 3.0(¥2,500)App
カテゴリ: 辞書/辞典/その他, 教育
販売元: 物書堂 - MONOKAKIDO Co. Ltd.(サイズ: 124.4 MB)

ちなみに物書堂さんのアプリは他のどのアプリも素晴らしいです。
僕が持ってるものご紹介しときますね。


類語辞典大辞林との連携も出来ます。こちらも美麗。

※価格は情報取得時点のものです。ご購入前にその時点の価格を確認願います。

角川類語新辞典 1.2(¥1,500)App
カテゴリ: 辞書/辞典/その他, 教育
販売元: 物書堂 - MONOKAKIDO Co. Ltd.(サイズ: 16.8 MB)


ウィズダムはAppBankさんのイベント時にじゃんけん大会で戴きました。自慢。でもこれ除いても一番僕がお金を使ってる開発者さんであることには違いないですが。

※価格は情報取得時点のものです。ご購入前にその時点の価格を確認願います。

ウィズダム英和・和英辞典 2 2.0(¥2,800)App
カテゴリ: 辞書/辞典/その他, 教育
販売元: 物書堂 - MONOKAKIDO Co. Ltd.(サイズ: 211.6 MB)

(2013.9.22追記)リンクを現時点でリリースされている最新版「ウィズダム英和・和英辞典 2」に差し替えました。



僕のiPhoneアプリで一番高額。なんで買ってんの。

※価格は情報取得時点のものです。ご購入前にその時点の価格を確認願います。

伊和・和伊中辞典 3.0(¥4,800)App
カテゴリ: 辞書/辞典/その他, 教育
販売元: 物書堂 - MONOKAKIDO Co. Ltd.(サイズ: 112.2 MB)

どのアプリも、インデックスこそ大辞林と違いますが、なぞり検索など利便性の高い仕組みは組み込まれていて、実に使いやすいアプリばかりです。




余談になりますが、先日Twitter上でレベニューシェアについてお聞きした(というか別の人と話をしていたらわざわざ見つけて説明して下さった)ときにも丁寧に応えて下さった[twitter:@monokakido]さん。UIの素晴らしさに加えて、開発者としての誠実さが信頼されているからこそ、多くの出版社がこうしてコンテンツを託してみようと思われるのでしょうね。